スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表している世界デジタル競争力ランキングによると、日本は調査対象国63か国中27位、主要先進7か国中6位という結果でした。この結果から分かるように、日本のデジタル競争力には強化の余地が残されていると言えます。
こういった面を改善するためにも、2021年9月にはデジタル庁が設立されるなど、国を挙げてデジタル化、DXを推進しようという動きが強まりつつあります。この流れに乗り遅れないように本記事では、デジタルトランスフォーメーション(DX)とは何なのか、どういったメリットがあるのか、実際に推進するにはどうすればいいのかなど、DXの成功事例を交えて解説していきます。
DXとは
そもそもDXとは、デジタルトランスフォーメーションの略称であり、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授のエリック・ストルターマンによって提唱された概念です。ストルターマンは、DXを「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面で良い方向に変化させる」と定義し、この考え方が今日でも根底となっています。
つまり、現代におけるスマートフォンやパソコンなどのIT製品やサービスなどにより、人々の生活の質が向上すること、それがストルターマンが掲げるDXです。これとは別に、経済産業省はDXを次のように定義しています。
企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」。
この定義では、製品やサービスだけでなく企業活動や組織構造にもテクノロジーを取り入れ、新たな価値創造をし競争に勝ち残るための手段であると示しています。
参考記事:DXレポートITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_transformation/pdf/20180907_03.pdf
DX成功事例
では次に、国内外の企業でのDX成功事例を紹介します。
株式会社リレイス
当社では、様々なアプリやシステム導入を検討されている企業に対し、入念なヒアリングを行います。これにより、上流工程から下流工程へ順にシステム開発を行うウォーターフォール開発か全工程を同時に開発し、随時変更や修正を行いスピード感のあるアジャイル開発か適しているかを見極めていきます。その上で、クライアントに提案し納得していただけるようなアプローチ方法をすることで、DX導入の成功を導く伴走型のビジネスモデルとしての実績を積み重ねています。
2021年には、都市部で働くオフィスワーカーの防災スキル向上を目的として、PoC版のWEBアプリを開発しています。 PoCとはProof of Concept(概念実証)を意味し、新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証することです。 このアプリでは、職場や自宅で発生する複数の被災シーンを想定し、アプリ内で選んだ選択肢によって自分の防災スキルのスコアがわかる診断機能、自分の働くオフィスビルの非常口やAEDの設置場所を確認するステップを設けることで、社員の防災スキルを自然と向上させることができます。
日本電気株式会社(NEC)
NECでは、生体認証を活用して共通のIDによって複数のサービスで一貫した体験を提供する「NEC I:Delight」をコンセプトとして掲げています。例えば、入場ゲートや警備員によるセキュリティチェックで立ち止まることなく顔認証カメラによる本人確認を行えたり、店舗内に設置されたカメラから本人確認を行うことで、レジを通さず手に取った商品を自動決済することなどが可能です。また、スマートフォンのカメラなどを活用し、オンラインで本人確認が行える「Digital KYC」というサービスも提供しており、従来の金融機関の口座開設に必要な書類一式を郵送することなく、オンライン上で完結できるなどデジタルを活用した本人確認の新たな形を提供しています。
清水建設株式会社
清水建設は、建物OSの「DX-Core」を商品化することでDXを実現しています。DX-Coreとは、 建物内の建築設備やIoTデバイス、各種アプリケーションの相互連携を容易にする建物運用デジタル化プラットフォーム機能を備えた基本ソフトウェアです 。これを導入したことで、空調・照明の制御や監視カメラの画像処理、入退館のカードキーの読み取りなど従来では個別で管理していたものを、DX-Core上で全てのシステムを一括管理できるようになりました。またDX-Coreでは、監視カメラのような設備機器と不審者検知などのアプリケーションを簡単に連携でき、情報の流れを自由に変更できるので、人件費の削減や管理・利用の効率化につなげることに成功しています。
アサヒグループホールディングス株式会社
アサヒグループホールディングスが現在、積極的に進めているのが「DigitalExperiencePlatform」の構築です。これは、傘下に食料品や飲料水、酒類など多岐にわたる商品の製造・販売を行っている企業を多数保有する同社だからこそ実現できる施策であると言えます。DigitalExperiencePlatformでは、今までは十分に活用できていなかったアサヒグループの各社が保有する膨大な顧客データを横断的に活用することで、各消費者に適した商品の開発・提案を行うことが可能です。また、顧客データのみならず、バリューチェーンやサプライチェーンなど総合的に分析する基盤つくりを行っていくことで、データとノウハウを蓄積し、消費者にあらたな価値提供を目指しています。
出光興産株式会社
出光興産では、AIを活用することで配線計画策定や製油所の保全業務改善など、既存ビジネスを発展させ、事業効率の最大化や企業競争力の維持強化、安全・安定操業の継続に取り組んでいます。また、他の事業部門においてもDXによる業務改善を通じてコストの最適化、バリューチェーンの変革を実施することで、ビジネスの拡大と収支の改善につなげています。さらに、全国6,400カ所のエネルギー供給拠点(SS)にアプリやデジタルマーケティングなどのデジタル技術を用いることで、消費者が給油に来るのをただ待つだけではなく、情報を発信し、SSを新たな体験ができる場所へと変貌させるなど、新たなビジネスモデルの創出も目指しています。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
小売業を営むセブン&アイ・ホールディングスでのDXの目的は、「セブンイレブンネットコンビニ」などのECビジネスにおいて、配送効率の最適化です。そこで、ラストワンマイルDXプロジェクトを立ち上げ、車両やドライバーの「配送リソース」と①車両・ドライバー、②配送料、③配送ルート、④受取場所の4つの要因の最適化を実現する「AI配送コントロール」の2つの要素を検討しています。AI配送コントロールに関しては、当社グループの競争力の源泉と考え、グループ共通のプラットフォームを構築し、このプラットフォームと配送リソースを組み合わせることで、「セブンイレブンネットコンビニ」では現在、注文から最短30分での配送を実現しています。
株式会社りそなホールディングス
りそなホールディングスはアプリケーション基盤の提供を通じて、高品質なサービスや新たな顧客体験の実現を追求し、他社のお客さまを含めた全てのステークホルダーの利便性の向上や地域経済の発展を目指しています。 りそなのバンキングアプリを使えば時間や場所を問わず、口座の残高照会や振込、振替等の様々な取引を簡単な操作かつスマートフォン内で完結でき、従来の銀行業界で課題となっているビジネスモデルコスト構造を解決することに成功しました。また、一部店舗にはタブレット端末を設置しており、住所変更などの手続きを画面上で行うことができます。伝票・印鑑なしで簡単シンプルに行うことができるなど、新たなビジネスモデルの創出のために積極的にDXを推進に努めています。
日本郵船株式会社
日本郵船では、AIを導入した自動運航船の社会実装を進めています。自動運航が実現すれば、乗組員の負担が減るだけでなく、必要最低限の人数だけを乗船させればいいので、人件費を削減することができるでしょう。さらに、ヒューマンエラーによる事故を防ぎ、波の動きや風の流れをリアルタイムで読み取ることで航路のリスク管理と最適化を実現することもできます。その他にも、配船スケジュールを計画する際に、お客様のご要望や航海日数、費用、環境負荷等を考慮して数十万通りシュミレートを重ね最適案を出し、環境負荷低減や業務改善を同時に実現するシステムの構築に成功。船上電子通貨、MarCoPayを実用化することで、船員への給与を電子通貨で支払い給与送金の負担を減らしています。
ソフトバンク株式会社
ソフトバンクは医療・ヘルスケアや社会インフラ、物流、スマートシティ、小売・飲食など幅広いDX事業を展開していますが、それらを実現するために同社内のDXを推進しているプロジェクトが「デジタルワーカー4000プロジェクト」です。このプロジェクトでは、RPAやAIを中心に親和性の高いデジタルツールを組み合わせ、アナログなワークフローを自動化し、社員約4,000人分の業務効率化を目標に社員一人ひとりがDXを推進する意識づくりをしています。
産業面でのDX事例として、ヘルスケアアプリ「HELPO」があります。 HELPO(ヘルポ)は、⾝体に関するあらゆる悩みを様々な⽅法でサポートするヘルスケアアプリです。ちょっとした⾝体の不安を医師・看護師・薬剤師の医療専⾨チームに、24時間365⽇いつでもチャット形式で相談することができ、地域の病院検索、オンラインでの診療など、在宅勤務や現場勤務などの勤務体系に関わらずすべての従業員の健康をサポートすることができ、健康経営を⽬指す企業にとって⼀助となるサービスを提供しています。
中外製薬株式会社
中外製薬では、CHUGAIDIGITALVISION2030を掲げ、2030年を見据えたデジタル戦略を実行しています。その戦略の1つである「AIを活用した新薬の創出」では、抗体プロジェクトに機械学習を用いることで、最適な分子配列を得るAI創薬支援技術「MALEXA-LI」を開発し、従来よりも1,800倍以上結合度の高い抗体の取得に成功しました。また、機械学習を用いた病理画像の自動認識なども実用化され、研究プロセスの効率化に貢献しています。この他にも、スマートフォンやウェアラブルデバイスから得られるデータをもとに、患者の病気の有無や治療による身体的変化を客観的に可視化する「デジタルバイオマーカー」という指標の開発にも取り組んでいます。これにより、疾患の予防や超早期診断など新たな価値提供が当社の目標です。
Netflix
Netflixは創業時、ビデオレンタルを営んでいました。ちょうどそのころにインターネットが商用化され始め、Netflixはインターネットによるビジネスモデルの革新を行い、現在では主流となっているオンラインビデオレンタルを始めたのです。これにより、配送料の抑制や来店不要による顧客の負担軽減等を実現し、コンテンツ配給という価値を最大化することに成功しました。加えて、サブスクリプションによる収益モデルの変革もDXによる功績といえます。リアル 店舗型であれば陳列在庫が限られているので、売れ筋の回転を速めるために延滞料というペナルティは必須になりますが、オンライン店舗では同時複数視聴が可能となったことから、ビデオレンタル業界の収益構造を根本的に変える仕組みを作り上げました。
Spotify
音楽コンテンツはレコードからMD、カセット、CDと時代とともに提供方法が変化してきました。そして現在、主流となっているデジタル配信を広く浸透させたのがSpotifyであると言えるでしょう。Spotifyは現在流行りのサブスクリプションモデルであり、月額980円を支払うことで数千万の曲を無制限に堪能することができます。Spotifyが登場したとき、世間には他にも似たようなストリーミングサービスが存在していましたが、Spotifyの膨大な曲数とユーザーが自分の好みに合わせて作ったオリジナルのプレイリストなど30億以上のプレイリストによる差別化を図ることで、世界シェア1位を獲得することができました。
Microsoft
プラットフォーム「MicrosoftTeams」を開発し、ハイブリットワークといった働き方改革を推進しているMicrosoft。MicrosoftTeamsとは、チャット、通話、ビデオなどあらゆるコミュニケーションツールを備えており、それ以外にもドキュメントや写真、会議ノートなどにもいつでもアクセスできるので、場所を問わず同時に共同作業も簡単に行うことができます。チームで作業するために必要なアプリは、すべてここに用意されているので、準備に手間取らずに作業をスムーズに進められるのが特徴の一つです。このプラットフォームはコロナ禍において、多くの企業が導入し、リモートワークの需要を満たすことに成功しています。
Airbnb
Airbnbは、使われていない部屋や家などを利用したいユーザー(旅行者等)に貸し出すためのマッチングサイトです。 日本でもマスコミで取り上げられ「民泊」という言葉が浸透しましたが、Airbnbはいわば「民泊を仲介するプラットフォーム」ともいえます。 自宅を他人にシェアするという新たなビジネスモデルは、ユーザーは安く宿泊でき、自宅所有者は収益を得ることができるwin-winの関係を構築しました。また、民泊だけでなくツアーやアクティビティなどの体験の提供も始まったことも相まって、従来では旅行をするならホテルや旅館に宿泊するのがセオリーだったのが、新たに選択肢が増えたことで旅行業界に大きな影響を与えたDX事例の1つでしょう。
Uber
Uberは 、 米国発のライドシェアを目的とした自動車配車サイトで、 Airbnbと同じように 車を貸したい所有者と 移動したい人とを マッチングさせるシステムです 。Uberアプリで目的地を設定するだけで、近くにいる車の所有者とマッチングされ、そのままタクシーのように配送してもらえます。また、あらかじめ登録したクレジットカードから自動決済されるので、目的地に到着した後の面倒な支払いは省くことができるのが特徴の一つです。従来、タクシーのみだった車の移動手段に新たに加わったUberでは、車の所有者は収益が得られ、移動したい人は安価で移動できるという両者にとってメリットのある仕組みとなっており、シェアの拡大を続けています。
参考記事:デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2021
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/dx-report2021.pdf
成功事例から読み解くDX推進のポイント
貴社がDXを導入する際に、少しでも成功に近づけるように5つのポイントを紹介します。
ITシステムの基本構想の検討体制
これは大前提ですが、DXを達成するにあたり、戦略的なデータ活用とそのためのITシステムの基本構想を検討するための体制(組織や役割分担)が整っているかをチェックしましょう。DXに必要なデータとその活用、それに適したITシステムの全体設計を描ける体制・人材を必要最低限確保し、充分な体制づくりをしてください。
経営トップのコミットメント
DXを導入実現するには、ビジネスや仕事の仕方そのものの変革へのコミットが不可欠であり、経営トップ自らがDXに強いコミットメントを持って取り組んでいることが重要です。
仮に社内に抵抗勢力がいる場合、トップがリーダーシップを発揮し、意思決定をすることが大事です。一部門に任せるのでなく、企業全体がDXに取り組んでいることが理想です。
新たなデジタル技術活用におけるマインドセット
新たなデジタル技術を活用する際、経営戦略とそれを実現するためにDXが目指すべきものを踏まえて、次のようなマインドセットで取り組むことが可能な環境や体制をつくることを目指しましょう。
・仮説検証の繰り返しプロセスが確立できているか
・仮説検証の繰り返しプロセスを迅速に実行できること
・実行して目的を満たすかどうか評価する仕組みとなっていること
DXの取り組みの継続
DXの取り組みは、完了するものではなく、環境やビジネスモデルの変化に合わせて、継続的に行っていく必要があります。
評価・ガバナンスの仕組み
社内でシステムができたかどうかではなく、ビジネスが上手くいったかどうかで評価する仕組みになっているのかどうかを意識しましょう。
システムは目的ではなく手段であることを認識し、その上で、ITシステムやその投資に対する経営の観点から、そのシステムをコントロールできる仕組みとなっているのかを心がけてみてください。
DX推進のメリット
では、DXを達成することで、企業はどういったメリットを得ることができるのか、代表的なものをいくつか紹介します。
業務の改善・効率化
ITツールを利用することで、アナログ作業の作業時間を大幅に短縮や作業の自動化など、作業効率の向上と人的負担の減少につなげることができます。
また、ヒューマンエラーの防止等などにもつながるので、品質にムラが出にくく、一定の高水準を維持することもできるでしょう。
さらに、ITツールは人間と違い、休憩をとることなく24時間年中無休で働き続けることができます。そのため、作業を常に進めることができ、納期の短縮も実現可能となります。
競争力の強化
DXを充分に達成している国内企業はまだ少数であることから、DXを推進するだけでも競合他社との差別化を図ることができます。
作業効率を向上させることで業績を伸ばすことができるほか、新たなビジネスモデルの創出なども可能となるでしょう。そうなれば、事業の更なる拡大や業界で初の試みなど、企業の優位性を確立することにもつなげられます。
レガシーシステム問題の解決
レガシーシステムとは、自社システムの中身がブラックボックスになってしまうことにより、改善することが困難な状況であるシステムのことを意味します。
そのため、レガシーシステムを使い続けると、既存企業の業務効率を向上させることは難しく、それどころかシステムの維持管理に莫大なコストがかかってしまいます。
よって、DXを推進することでレガシーシステム問題を解決し、時代に沿ったビジネスモデルの創出を図ることで、企業の競争力の強化につなげることができます。
まとめ
本記事では、DXの定義や必要性、導入するメリットなどを実際の事例を交えて紹介しました。ただ、企業によって目的は様々で、どんな目的でDXを推進するのか、どんなアプローチで進めることが有効的かなど、慎重に判断し計画することが重要となります。そこに膨大な時間と労力を割くことになりますが、業務改善・効率化や人件費コストの削減、競争力の強化などあらゆるメリットを受け取れることも事実です。業種に限らず、導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。