自社のデジタルトランスフォーメーション(以下、 DX )化を急がなければならないと考えている企業は、経済産業省が 2019 年に作成した「デジタル経営改革のための評価指標」(以下、 DX 推進指標)が役立つはずです。

企業がこの DX 推進指標を確認すると、自社の DX や IT 化の取り組みがどのレベルにあるかがわかります。さらに、レベルごとにやらなければならないことが書かれてあるので、自分たちの課題とその解決方法がわかります。

生産性を上げるにもイノベーションを起こすにも、 DX の導入は避けて通れない道です。 DX 推進指標で自社の課題が浮き彫りになれば、効率よく業務や事業のデジタル化を進めていくことができるはずです。

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DX推進指標とは

経済産業省は企業に、デジタル経営改革に取り組んで欲しいと考えています。しかし現状は、多くの企業が「DXによってビジネスの変革を起こしている」状態から遠く離れています。

そこで同省は、企業に簡単にDX自己診断をしてもらうために DX推進指標 を作成しました。

DX推進指標は2部構成になっていて、計4つの指標があります。

上の図にあるように、DX推進指標の構成は「DX推進のための経営のあり方、仕組みに関する指標」と「DXを実現するうえで基盤となるITシステムの構築に関する指標」で構成されています。

DX推進指標を作成した背景には「2025年の崖」問題があります。これは、日本企業がDXに取り組まないと、2025年以降毎年、最大12兆円の経済損失が生じるであろうとする予測です。

DX推進指標は、経営者、経営幹部、事業部門、DX部門、IT部門に活用してもらうことを想定しています。

DX推進指標とそのガイダンスとは

経済産業省は経営者やDX担当者たちに積極的にDX推進指標を使ってもらおうと「『DX推進指標』とそのガイダンス」(以下、ガイダンス)を作成しました。これは下記のURLから、誰でも無料で入手することができます。

『DX推進指標』とそのガイダンス

ガイダンスは53ページにもなる長編なので、ここでは9つのキークエスチョンと26のサブクエスチョンについて紹介、解説します。

9つのキークエスチョン:経営者が回答する質問

キークエスチョンは、経営者が回答するための設問です。とても重要な内容なので、長くなりますがすべて引用します。

1)データとデジタル技術を使って変化に迅速に対応しつつ、顧客視点でどのような価値を創出するのか。社内外でそのビジョンを共有できているか。

2)将来におけるディスラプションに対する危機感と、なぜビジョンの実現が必要かについて、社内外で共有できているか。

3)ビジョンの実現に向けて、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化を変革するために、組織整備、人材・予算の配分、プロジェクト管理や人事評価の見直しなどの仕組みが、経営のリーダーシップの下、明確化され実践されているか。

4)挑戦を促し失敗から学ぶプロセスをスピーディーに実行しているか。そして、これを継続できる仕組みを構築できているか。

5)DX推進がミッションとなっている部署や人員は明確になっているか。その役割が明確になっているか。また、必要な権限を与えているか。

6)DX推進に必要な人材の育成・確保に向けた取組が行われているか。

7)DXを通じた顧客視点での価値創出に向け、ビジネスモデルや業務プロセス、企業文化の改革に対して、(現場の抵抗を抑えつつ、)経営者自らがリーダーシップを発揮して取り組んでいるか。

8)ビジョンの実現や価値の創出のためには、既存の IT システムにどのような見直しが必要であるかを認識しているか。その対応策を講じているか。

9)ビジョンの実現に向けて、IT 投資において技術的負債を低減しつつ、価値の創出につながる領域へ資金・人材を重点配分できているか。

理念や概念を説くだけでなく、人材、業務プロセス、現場の抵抗、資金といった具体的な事柄についても言及しています。

サブクエスチョンになるとさらに事細かに尋ねられます。

26のサブクエスチョン:実務担当者が回答する質問

26 のサブクエスチョンは、経営者が経営幹部や事業部門、 DX 部門、 IT 部門の担当者たちと議論をしながら回答するものです。したがって実務担当者が回答すべき質問と考えてよいでしょう。

サブクエスチョンには例えば「自社のリソースのみでなく、外部との連携にも取り組んでいるか」といった質問があります。ガイダンスではさらに「高度なデジタル技術を有する IT ベンダーとパートナーとしての関係を構築することが重要」と指摘しています。

かなり具体的に、外部を頼るよう指南している印象です。

また「技術に精通した人材と業務に精通した人材が融合して DX に取り組む仕組みが整えられているか」というサブクエスチョンもあります。これもかなり細かい指導といえます。

DX 担当者にとって 26 のサブクエスチョンは「やることリスト」になるでしょう。

DXの教科書のような存在

企業に具体的に「これをしてみましょう」と提案しているこのガイダンスは、 DX の教科書的な存在といえます。

DX推進指標を使う企業は、これらのクエスチョンに対して根拠を示しながら回答していく必要があります。

経営者などが根拠ある回答をすることで、実際に手を動かすDX担当者の意識は高まるはずです。また根拠があるので、外部のリソースを利用するときも情報の共有がスムーズに進むでしょう。

なおDXについては以下の記事でも詳しく解説していますので参考にしてください。

(「DXとは」の内部リンク)

DX推進指標における6段階の成熟度

上記画像のように、

DX

推進指標には、企業の

DX

の成熟度を測る

6

段階のレベルが示されています。簡潔にまとめると以下の通りです。

  • レベル 0 :経営者が無関心か、関心があっても具体的な取り組みにいたっていない。
  • レベル 1 :全社戦略が明確でない。部門単位での試行、実施にとどまっている。
  • レベル 2 :全社戦略が明確だが、推進は一部の部門にとどまっている。
  • レベル 3 :全社戦略に基づき部門横断的に推進できている。
  • レベル4:定量的な指標などを使って持続的に実施できている。
  • レベル5:デジタル企業としてグローバル競争に勝ち抜くことができるレベルに達している。

DXに取り組んでいない企業はレベル0から始めて、最終的にレベル5を目指します。

経済産業省は、企業に自社のレベルを確認してもらうことで、次のレベルに向けてアクションを取って欲しいと考えています。

DX推進指標を利用する4つのメリット

企業がDX推進指標を利用すると、少なくとも次の4つのメリットを得られるでしょう。

  • メリット1:全社共通の指標ができる
  • メリット2:自社の課題を把握し、適切な施策がわかる
  • メリット3:施策の進捗管理やDXの進み具合がわかる
  • メリット4:他社との比較ができる

1つずつ確認します。

全社共通の指標ができる

DX は、社内の一部の部門の IT 化が積み重なっても達成できません。例えば、総務部が使っているシステムと経理部が使っているシステムが独立していて連動していなければ、IT化は進んでいても DX にはつながりにくいでしょう。

つまり、DX は全社一丸となって取り組まなければなりません。

このときDX推進指標は社内の共通語になります。例えば経営者が「当社は今、レベル2の状態にあるのでこれからレベル3を目指して取り組んでいく」といえば、DX推進指標を知っている従業員はすべてその言葉を理解して、自分がやるべきことに取り組むことができます。

自社の課題を把握し、適切な施策がわかる

DX推進指標を使って社内のIT化の状況やDX推進状況を確認すれば、企業は今抱えている課題がわかり、DX推進に必要な施策がわかります。

例えば、キークエスチョンの1つに「 DX 推進がミッションとなっている部署や人員が明確になっているか」という問いがあります。明確になっていなければ、その会社の今の DX 課題は、部署と担当者を明確にすること、になります。

さらにDX推進指標には、経営トップが必要な人材を充てその人材に必要な権限を与えるように、と記されています。これが、この会社が行わなければならない施策になります。

施策の進捗管理やDXの進み具合がわかる

先ほど紹介したDX推進指標の6段階のレベルは、施策の進捗管理やDXの進捗具合の把握に役立ちます。

企業のDXがレベル0から一気にレベル5に到達することはないでしょう。DXは階段を段階を踏んで進めていきます。

その際にDX推進指標は道標(みちしるべ)となり、企業の現状の立ち位置を知らせてくれるでしょう。

他社との比較ができる

DX は生産性や効率性、イノベーションに寄与するので、企業の成長力に直結します。そのため他社に先んじるには、DX推進において他社を上回る必要があります。

他社の DX は、ホームページや報道などである程度わかります。その情報をDX推進指標で分析すると、その会社のDXレベルが推測できます。

それと自社のDXレベルと比較することで、自社が先行しているのか、それとも後塵を拝しているのかがわかります。

DX推進指標を利用する際の注意点

経営者や企業のDX担当者は、DX推進指標を利用するとき「実質」を追求することを意識してください。

DX推進指標はあくまで指標であり、教科書的な目標にすぎません。しかし経営者やDX担当者がDXによって得たい成果は、生産性の向上や効率化やイノベーションといった実質的なもののはずです。

推進指標に沿ってDXを進めていくことは手段であり、それを目的にしても意味がありません。

DX推進指標をチェックして自社がレベル2からレベル3に昇格できても、その間、売上高も利益も生産性も上がっていなければ、あるいはコストダウンを実現できていなければ、DXをビジネスや事業に活かせていないことになります。

DXによって実質的なメリットが得られるように、DX戦略をデザインしていく必要があります。

DX推進を阻む課題

経営者も従業員も、およそビジネスをしている人でDXに反対する人はいないでしょう。しかしDXは簡単な事業ではなく、お金も手間も時間もかかるのですべての企業が積極的に取り組んでいるわけではありません。

そこでDXの推進を阻んでいる要素を考えてみます。DX課題が明確になれば、解決する方法を考えることができるのでDXを進めやすくなります。

全体のビジョンが定まっていない

経営者がDXのビジョンを示さないと、なかなか先に進みません。全体のビジョンが定まっていないことは、DXの阻害要因です。

DXは新規事業を創出したり、イノベーションを起こしやすくしたりするために導入するので、そのような全社的なビジョンのなかにDXビジョンを組み込むとよいでしょう。

経営者は、DXの導入によって何ができるのか、DXを進めないとどのような事態に陥ってしまうのかを全従業員に示す必要があります。

なおDXを推進させていく方法については、以下の記事で詳しく解説しています。

(「dx推進」のURLを入れてください)

DX人材が不足している

DX導入事業は大がかりになるので、恐らく今社内にあるIT部門だけでは手が負えないでしょう。特にシステムやサーバーの管理や維持、従業員のITサポートといった仕事しかしていないIT部門では、本格的なDXの実現は難しいはずです。

当然ですがDX人材が不足していては、社内にDXを構築することはできません。

DX推進指標でも人材の確保は何度も指摘しています。

DX人材の確保や育成方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

(「dx 人材」のURLを入れてください)

DX推進のための外部リソースの活用

社内DX人材がいなくてもDXは進めなければならないので、多くの企業にとって外部リソースの活用はDX推進の鍵を握ることになるでしょう。

システム開発会社に依頼する

システムを導入した「だけ」では DX になりませんが、社内の業務をシステム化していくことは DX 推進の前提条件です。

そのため、社内で DX 戦略が固まったら、社外のシステム開発会社に相談して、必要なシステムをつくっていくことになります。

システムは、業務の効率化を図るものだけでなく、ビッグデータを処理できるものや、 AI 分析できるものも必要になります。

経営戦略づくりやマーケティングに貢献できるシステムをつくることができるシステム開発会社とタッグを組めることが理想です。 そのため、 外部リソースを使うときは、業者の選定に注意してください。

DX には業務そのものや、製造プロセス、製品開発、サービスの提供方法、ビジネスモデルといった要素も関わってきます。

それらのビジネス要素と DX を組み合わせることが苦手な企業は、「何を作るか」から相談できるシステム開発会社や、 IT コンサルティング会社に相談したほうがよいかもしれません。

DXコンサルティング会社に依頼する

ITコンサルティング会社のなかには、企業のDXをサポートする事業を始めているところもあります。

そのようなDXコンサルティング会社は、クライアント企業の「うちの会社のDXはどこから手をつけていけばよいのか」といった初歩的な相談にものってくれます。

また、DXコンサルティング会社なら、業務、製造プロセス、製品開発、サービスの提供方法、ビジネスモデルなどのビジネス要素と DX を結びつけた DX 戦略を描いてくれます。

DX コンサルティングとシステム開発の両方を手がけている会社に依頼すれば、 DX 戦略を立てたあとの実際のシステムづくりも携わってもらえます。

DX コンサルティングについては、下記のサイトが参考になるでしょう。

(DXコンサルティングの URL を入れてください)

まとめ

DX推進指標は、とてもよくできたDX教科書です。「よくできた」とは、問題提起の内容が具体的で、何をしなければならないのかが明確で、「このとおり進めれば自社にDXを導入できる」と感じることができる、という意味になります。

DXを検討している経営者や、社内のDXを命じられたDX担当者には一読することをおすすめできます。

これを政府がつくったことには、少なからぬ驚きがあります。DXの導入は企業にとって投資であり、その投資判断に政府が助言するのは異例です。

そこには政府の、DXが進まないことへの危機感が感じられます。2025年の崖を持ち出すまでもなく、非DXは企業の成長力を削ぎひいては日本経済を弱体化させます。

「DXを進めていかないと生き残れない」という危機感を持つためにも、経営者やDX担当者は是非DX推進指標の活用をおすすめします。